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風の歌うたい

「河よりも長くゆるやかに」を読んだので
続けて吉田秋生を読みたくなってしまいました。
今回は短編です。
たかだか32pのなかに織り込まれた世界。
それで充分に満足してしまう自分がいるのです。
別冊少女コミック1980年1月号に掲載された
「風の歌うたい」
オオミズアオの一生を女郎蜘蛛の視点から描いたものです。
少女マンガで虫を扱うこと自体珍しい。
たとえ見た目がきれいだとはいえ
虫というだけで毛嫌いする人が多いのに
あえて虫の美しさ、儚さを描こうとする勇気に
まずは敬意を表したいです。
蛾の中では大きな部類に入るオオミズアオ。
蝶とは違って虫の中でも忌み嫌われることの多い蛾のなかでは
例外的な美しさと優雅さを持っているのです。
特に夜に見ることの多いというのも
この儚い蛾の美しさを増しているように思います。
街灯にバサバサ群がっているのは興ざめですけど
夜の街灯の下で一匹だけ佇んでいるのを見ると
得した気分になれます。
それくらいきれいな蛾です。
どんな風かというと、羽は前翅が大きく後翅は長細い感じで
アゲハに印象が近いと言えます。
この羽の色がまたいいんです。
少し緑がかかった水色なんです。
しかも透き通るほどに薄くて
それがまた儚さを補完しているように思えます。
蛾にもこんなきれいで儚い種類があるのだと知って欲しいものです。

回り道が長くなりましたが
その儚い生き物の一生を擬人化して描いたのが
この短編なのです。
実はこの短編の主要な登場人物は
すべて儚い生き物です。
面倒なので
今回は説明を省きますけど
女郎蜘蛛のオス
ヒグラシ
どれも儚い虫の代表選手みたいなものばかり
しかし一生を終える運命を持つオオミズアオ以外の登場人物は
超越した存在になっています。
本来は儚いはずのものが強く生きていて
それの対比として儚い運命を受け入れるオオミズアオを描いているのです。

はぁ~
いつ読んでもため息が出てきます。
特に傑作というわけではないのに気になってしまう作品があると思います。
自分にとってはこの作品がそれに当たります。
ホント、どこが優れているとは言えないんだけど
なんか好きなんです。

この作品で一番好きなシーンは
繭から出てくるオオミズアオ。
出てきただけで
すぐに死んでしまいそうな感じが気に入ってます。
by yakumo-murakumo | 2005-04-06 20:44 | マンガ


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